07

06

08

10

SFプロトタイピングでSFと企業をつなぐ。

企業がイノベートする際に必要なものは「創造力」と「想像力」だ。 そしてその、「創造力」と「想像力」を高めるうえで効果的なのが「SFプロトタイピング」である。 SFプロトタイピングとは、従来のコンサルタントファームが行うフォアキャスティングではなく、SFの力で未来を想像し、そこからバックキャスティングして今なにをすべきかを考えるための手法。 このSFプロトタイピングを企業に提供するアノン株式会社は、日本におけるSF作家などの職種団体である日本SF作家クラブとコラボレーションすることで、日本の企業の価値を高め、貢献できると考えた。 また、日本SF作家クラブとしてもSF作家たちのビジョンやマインドが社会に対して貢献できることは意義あると考えている。そして、日本SF作家クラブには年に一度開催する「日本SF大賞」の運営というミッションがあり、この「日本SF大賞」のために企業からのスポンサードは必要不可欠になっているという事情もある。 この2社ががコラボレーションすることで、「企業」と「SF」という、従来では相反するものがテクノロジーの世界でより密接に関係するようになる。 【左】森竜太郎●アノン株式会社 代表取締役 UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)卒業後、インターネットメディアやサービスのデザイン及びグロースに従事。その後、培養肉開発を進めるインテグリカルチャーの創業CFO/CMOを経験。上場企業複数社との提携を推進し、官民から3億円を調達。並行して空飛ぶ車を開発するCARTIVATORの事業責任者を兼務。トヨタ系15社などからの協賛金獲得に貢献。 2019年からアノン株式会社の代表取締役を務める。 アノン株式会社 【右】藤井太洋●SF作家/日本SF作家クラブ理事 ソフトウェア開発会社に勤務しながら小説を執筆。2012年、電子書籍で『Gene Mapper -core-』を発表。2013年、同作品を増補改稿した『Gene Mapper -full build-』(早川書房)で単行本デビュー。 2015年、『オービタル・クラウド』で第35回日本SF大賞を受賞、第46回星雲賞を受賞。同年、第18代日本SF作家クラブ会長に就任。2019年、『ハロー・ワールド』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。 日本SF作家クラブ SFプロトタイピングで企業の事業を創出する。 森竜太郎●アノン株式会社 代表取締役Photographing 山本ヤスノリ ─アノンとは何を実現しようとする会社なのでしょうか? 森:「SFの社会実装を通じて社会経済の発展に貢献する」をミッションに掲げる、ちょっと変わった会社です。 私は培養肉開発や空飛ぶ車の事業開発といったSFのような仕事に携わってきました。そのため、私にとってSFは「読むもの」でも「見るもの」でもなく、「やるもの」だったんです。 従来、SFは多くの技術者や科学者をインスパイアしてきました。その結果として社会経済が発展して来た歴史があります。そこで、自然発生的に生まれたこの現象を、より体系的に実現しようと考えたのが創業理由です。 SF作家や研究者を中心とするコミュニティを形成し、ビジョンに賛同する共同研究パートナーと、「SFプロトタイピング」を中心とした体系的かつ創造的な手法を駆使して未来を共に描いて行こうと考えています。 ─SFプロトタイピングとはなんなのでしょうか? 森:簡単にいうと、SFの執筆と発想を用いて、企業のビジョンを拡張し、大胆かつ独創的な事業を創出するための手法です。 既存のニーズにフォーカスするデザイン思考や、イシューから始めるコンサル思考では描けないような事業構想を描き、そこからバックキャスティング、つまり逆算して事業計画を立てて行くことが可能となります。そのことで戦略策定方法の序章的位置付けにすることができるのがメリットです。 ─SFプロトタイピングにはどのような事例がありますか? 『インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング』SF通じて、技術の将来のインパクトを描く。未来の予言ではなく、未来と対話することで製品開発を行う。 森:最も有名なのが、米インテル社の製品開発での応用です。米インテル社のフューチャリスト(未来研究員)であるブライアン・デイビッド・ジョンソンが、著書『インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング』を2013年に刊行しています。米インテル社だけでなく、海外にはフューチャリストやフューチャビジョナリーを置く企業は数多くあります。 日本ではなかなかSFプロトタイピングは理解されていませんが、アメリカにはSFプロトタイピングに特化したスタートアップ「Sci-Futures」があります。この会社のクライアントにはVisaやフォード、ペプシコ、北大西洋条約機構(NATO)などが軒を連ねています。 ─Visaやフォード、ペプシコと聞いてもSFとは無縁な気がします。 森:今は技術が加速度的に成長しています。それはIT分野だけの話ではなく、食品や自動車においてもテクノロジーによって従来の製品がひっくり返るようなことが起きています。これからの技術の発展によって、将来、どのような風景が見えるかは予測できない状況です。 アノンでは新規事業企画のコンサルタントを行っていますが、よく「10年後の未来を描いて欲しい」と言われます。そのようなビジョン戦略をコンサルタント会社に依頼すると、彼らは社会や経済、政治などを分析し、将来どのようなトレンドが発生するのかをフォアキャスティングします。しかし、それでは現状の延長しか見えてきませんし、見えてくる未来の幅はとても狭いものです。私が行っているのは、幅を拡張するお手伝いです。 ─具体的に言うと? 森:私のクライアントに食品会社があります。ここでも同様に「10年後の未来を描いて欲しい」というオーダーがありました。私は先端技術の調査を行い、市場に出で間もない技術や、まだ出てこない技術を探索し、その情報をSF作家に共有し、技術を踏まえた、もしくは踏まえない自由な発想で10年後の食品をSFプロトタイピングしてもらいました。すると食品会社の人達が想像していた以上の発想が出てきました。このように誰もが思いつかなった未来を描くことができます。 一般社団法人として生まれ変わった日本SF作家クラブ。 藤井太洋●SF作家/日本SF作家クラブ理事Photographing 山本ヤスノリ ─日本SF作家クラブとはどのような組織なのでしょうか? 藤井:日本SF作家クラブは1963年に、小松左京、星新一、筒井康隆など、日本で戦後、SFを書き始めたSF作家を中心に、翻訳者や評論家、編集者達が発足させた親睦団体がスタートです。 その後、SFブームによってSF作家やSF作品が増え、SF小説から漫画はもちろんアニメやゲームとSFが拡がったことにより、活動の軸が移行して行きました。現在、最も大きな事業が1980年から始まった「日本SF大賞」です。2019年度で第40回を迎えました。 ─日本SF大賞はこれからも継続させる事業なのですか? 藤井:日本SF作家クラブは日本SF大賞を主宰・運営する団体です。日本SF作家クラブの会員も200名近く増えてしまうと意見も一致するものでもありません。しかし、団体として共同で行える日本SF大賞という事業は大きな柱だと言えます。もちろん、性格を変えて行く、例えば外部の審査員を入れるなどはあるかもしれませんが、基本的には継続させて行く方針です。 日本でSFを作っている人かいる以上、今年一番素晴らしい成果を出した人を表彰する。それを毎年続けることは意義があることですし、その行為にも意義があることです。 ─2017年に一般社団法人になりましたね。 藤井:一般社団法人になって大きく変わったのは「会社」になったということです。それまでは決定の場が総会しかありませんでした。ところが企業とコラボレーションすることも多くなり、決定をしなければならない場面が増えました。そのため、理事を置き、適宜理事会で話し合って事業を運営するスタイルに変えたんです。 森:藤井さんが会長として、一般社団法人化を推進されたのだとか。 藤井:私は2015年に会長になりましたが、任期3年のうち初めの2年を使って準備をしました。2017年に一般社団法人 日本SF作家クラブを作り、会員にはそれまでの親睦団体 日本SF作家クラブから移行してもらいました。親睦団体を一般社団法人にメタモルフォーゼできないからです。なので実は親睦団体 日本SF作家クラブも存在はしているんです。 森:存在しているんですね。 藤井:しています。その意味では私は親睦団体 日本SF作家クラブの最後の会長で、一般社団法人 日本SF作家クラブの最初の会長なんです。 ─日本SF作家クラブが一般社団法人になってどのような変化がありましたか? 藤井:特に変わったことはありませんが、一般社団法人はさまざまな活動が認められているので動きやすくはなりました。また、金銭のやり取りができるようになったのは大きなメリットです。親睦団体では利益を会としてプールすることはできません。また、企業とコラボレーションするにしても日本SF作家クラブとしてコラボできないため、企業は作家個人と契約することになります。すると日本SF作家クラブが間に入る必要性がありません。それが一般社団法人化したことで企業とのコラボレーションもしやすくなりました。 SFと企業がコラボレーションすること。 ─企業とコラボレーションしたものに清水建設との「建設的な未来」がありますね。 藤井:清水建設のテクノロジーを活用した生まれる未来を物語にしたものです。あれは「日本で最初のSFプロトタイピング」と呼んでもいい活動だと思います。 建設的な未来清水建設と日本SF作家クラブによるコラボレーション。清水建設が持つ様々なテクノロジーを活用することで、どのような未来が創造できるかをショートショートで描くシリーズ。 森:どの作品も読みごたえがありました。企業の未来をSF作家が考えるwebサイトがあってもいいと思うんです。そこに様々な企業の未来を貯めて行く。さらにその未来にコメントが付けられるようになっていて、サイエンティストやオーディエンスも参加できるようにする。そんなオープンコミュニティができると面白いと考えています。 ─日本SF作家クラブが企業とコラボすることに対してはどのようにお考えですか? 藤井:企業がSFに興味を持ってくれることはとても嬉しいことですし、SFを発表する場を提供してくれることは望ましいことです。 企業がSFを、未来を予測する手法のひとつして期待するのはとてもよく解ります。そのためSF作家がコンサルタントのフォアキャスティングとはまるで異なる結果を出してくれるかもしれないという思惑に応えることは大事だと思います。その活動としてストーリーを執筆して提供することや、なんらかしらのお話しをする機会などあれば、喜んで日本SF作家クラブの会員に声をかけて行きたいと思っています。 ─企業からのオーダーは制約も多いと思うのですが、そこでのやりにくさはありませんか? 藤井:私自身、会社員の経験があるので、企業が求めるものは肌感覚でなんとなく理解できます。 例えば、SF小説はディストピアの方が読者を惹きつけやすく、SF作家としても滅亡をテーマに書くのは楽しいのですが、そのような物語と企業が見たい、知りたい物語は違うものです。 森:私は必ずしも企業の明るい未来といったニーズに応えることだけがゴールではないと考えています。「未来の可能性を探索する」ことが最も重要で、そのためにはディストピアも皮肉も必要だと思うんです。 確かに、私が企業に「SFプロトタイピングをやりましょう」と提案すると、どうしても理想的な明るい姿を求められます。しかし、悪夢を描くことも大事です。この技術を使うことで将来、どのようなことが起きるのかを考える。それが暗い未来なら、その訪れるかもしれない暗い未来を受け止める準備をすることも重要になってくると思うんです。 藤井:自動車メーカーから「未来の自動車を描いてくれ」とオーダーがあった場合、SF作家が真面目に考えたら、自動車のない未来を描いてしまいます(笑)。空を飛ぶ自動車、もしくは人間が運転しない自動車。あってもシェアエコノミーの自動車。どう考えても自動車メーカーにとってはディストピアです。もちろん、そのことは自動車メーカーにしてもわかっていることですけどね。 ─企業は「未来予想」を求めますが、SFは未来予想ではない、という問題もありますよね。 藤井:未来を予想しても当たらないですからね(笑)。例えば新型コロナウイルスなんて予想できませんでした。疫病が起こるのは予想できたとしても、実際にパンデミックが起きると想定外のことばかりが発生する。誰にもこうなるとは予測できません。しかし、パニック状態になったとき、人間はどのように反応するのか、行動するのかは小説の中で書くことは出来ます。 森:私もあるクライアントにSFプロトタイピングを提案したら「こんなコロナの時代にSFなんか考えられない」と言うので、「コロナの時代だからこそSFを考えないといけないんじゃないですか」と説得しました。この未曽有な事件で人間はどのような反応し、行動するのか、それはビジネスにどう影響するのかを考えないといけないと思うんです。まさに今はSFプロトタイピングが必要な時代なんです。 藤井:大きな事件があると人は統計で物事を見ようとします。膨大なデータを分析した結果、こうですと。例えば、犯罪者の顔をデータ化して、「犯罪を犯しやすい人はこんな顔です」と結論付けたり。 森:犯罪を犯しやすい顔を統計で割り出すことは簡単ですが、それはおかしくなりますよね。 藤井:おそらくSFは、「それはおかしいですよ」と気づかせてくれる装置なんです。そこにピットフォールがあるということを示すことができるのがSFです。 SFと企業がコラボレーションすることで未来を描く。 ─今後、企業とのコラボレーションは進みますか? 藤井:日本SF大賞を継続させるためには、日本SF大賞にスポンサードして頂く必要があります。そのためスポンサーが提供しているプラットフォームを使うなどして恩返しをする必要はあると思っています。 ─今後の展開はどうなのでしょうか? 森:我々は企業に対してSFプロトタイピングの提供をスタートさせたところです。ようやく価値を感じてもらえるようになりました。まずはそこをしっかり続ける。より一層、SFプロトタイピングを活用してコンサルティング事業を推進したいと思っています。また、内閣府がムーンショット計画を推進させていますが、私はそれに対するアンチテーゼとしてSF作家やコンサルタントなどさまざまな人の力を借りて2050年の国家ビジョンを作りたい。そのビジョンが出来ることでインスパイアされた技術者が新しい会社を立ち上げたら、そこに向けて投資をして行くことも考えています。 ─アノンと日本SFクラブとのコラボレーションは可能ですか? 藤井:何かあればぜひ、一緒にやりたいですね。 森:私もぜひ、一緒に企画したいと思います。これから相談させてください。

最近の投稿